(二)つくねのおばちゃん

私は目黒川にかかる大橋のたもとで「お好みやきとり」の店をやっていました。
いつのまにか四十年近く商を続けてきていました。
今は小さなお客様から「つくねのおばちゃん」というニックネームをいただき
結構気に入っていました。
歳は主人と共に六十半、息子一人娘二人の子育てと店の切り盛りに追われ
夢中のうちに過ぎてしまいました。

波乱万丈ながらきりぬけてしまえばそれなりに有意義な
楽しい時間でもあっ たように思えます。
私が多感な少女時代を過ごした隅田川沿いで次女が式を挙げるのも
何かのめぐり合わせと思えてなりません。
戦災で九死に一生を得たあの道への想いは今も忘れてはいませんでした。

「あの道をもう一度、歩いてみようか?」

と思い立ちました。

そう思ったものの結婚式の準備の打ち合わせを済まして家に帰り
日常生活に戻ってみればそれ所ではない現実で何も出来ずに二年が過ぎてゆきました。
三月の初めのことでした。
急に視力の衰えを感じ軽い気持ちで検眼に行ったところ左眼が
盲膜中心静脈閉塞症であることがわかり驚きそして弱りに弱りました。


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正面が家族のお店(桜の頃)